第5回 イベリア半島出身の偉大な皇帝たち


ローマ帝国の長い歴史の中で、18世紀のイギリスの歴史学者エドワード・ギボンが「人類の最も幸せな時代」と評した時代がある。それは1世紀末から2世紀後期に在位した5人のローマ皇帝の時代のことで、彼ら5人の皇帝を指して五賢帝と呼ぶ。

ローマ史上最大の版図
それまでローマ皇帝になれるのはイタリア本土の上流貴族の出自だった。しかしながら、イタリア本土以外の属州生まれで最初に皇帝になったのが、トヤラヌス帝である。トラヤヌス帝は現在のアンダルシア地方に位置するヒスパニア・バエティカ属州イタリカの出身で、当時から現代まで優れた為政者として敬意を集めている。もっともイベリア半島の属州民の血を引くのではなく、イタリアの貴族の出身であったが、帝国内の公共施設の強化、領土の拡大、ダキア(現ルーマニア)・パルティア(カスピ海南東部、イラン)で功績をあげ、ローマ帝国史上最大の版図を生み出した。

平和への舵取り
トラヤヌス帝の次に在位したのがハドリアヌス帝である。トラヤヌス帝の従兄弟の子供で、同じくヒスパニア・バエティカのイタリカで生まれた(ローマで生まれたという説もある)。領土の拡大路線を図ったトラヤヌス帝の方針を廃し、各地をあまねく視察して帝国の現状把握に努める一方、安定化路線へと舵を切った。「メソポタミアとアルメニアの放棄による東部国境の安定化」「帝国周辺地域における防衛策の整備」「ローマ帝国全体の統合強化と平準化」「長期の巡察旅行」「官僚制度の確立と行政制度の整備」「法制度における改革」「ハドリアヌスの長城の建設」など平和への改革を行った人物である。私生活では美青年の愛人アンティノオスを寵愛した同性愛者としても知られる。

哲人皇帝
属州ヒスパニア・バエティカのコルドバに所領を持つ貴族の家に生まれたマルクス・アウレリウス帝は五賢帝の最後の皇帝である。軍事よりも学問を好み、ストア派の哲学者という側面もあり「哲人皇帝」と称された。自らも「自省録」というギリシャ語で書いた哲学書を残している。よく帝国を統治したものの、対外政策では辺境諸種族との戦いに奔走し、結果として国力を疲弊させ、自らも陣中で没している。「未来を思いわずうな。必要あらば、現在役立ちうる知性の剣にて十分未来に立ち向かわん」「幸福な人生を送るのに必要不可欠なものなどほとんどない。それはすべてあなたの内部、あなたのものの考え方の中にある」など著作では数多くの名言を残している。

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